私と彼の関係
 そのとき私の足元に影が届く。そこには少し困った顔をしている岸川さんが立っていた。


「今日はごめんね。無理に誘って」


「そんなことないですよ。私も観たい映画だったし」


 見たい映画だったけど、ほとんど頭には入ってこなかった。


 何か映像が目の前で流れていくのに、字幕も、効果音さえも耳にしっかりと入ってこなかった。


「君がそう言うなら、いいけど」


 彼は含みのある言い方をすると、ゆっくりと歩き出した。


 私はそんな彼の後を追う。


「花火大会の日、あんなこと言って悪かった。でも、俺は本気だから」


 突然言われた言葉に、思わず目を見張る。彼は少し頬を赤くして、苦笑いを浮かべていた。


「君が宮野の彼女でもさ」


「もう彼女じゃないんですよ」


 振りという言葉を消したことが、余計に胸を痛くする。

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