王子様はカリスマホスト
「あたしの家は、ここだもん。ここで―――パパとママを、待つの」

小さな、まるで独り言のような言葉。

夢を見ていたんだ。

こいつにとって、両親が亡くなってからの生活は、夢の中の出来事のようなものだったんだと、そう思った。

事故に会って、意識を取り戻すまでの1週間の間に、葬式も初七日も済まされていて、気づいた時には1人取り残された状態で。

両親の亡き骸も見ることができずに、今までどんな思いを1人抱えてきたのか―――

それでも、唯菜をこのままにしておくわけにはいかない。

こんな悪夢から、早く目を覚まさせてやらなくては―――

そう思った俺は、目の前の唯菜の腕をグイと引っ張り、ソファーから立ちあがらせた。

「やっ、何するの!」

俺の手を振りほどこうとする唯菜。

俺は逆に唯菜の肩をつかみ顔を近づけ、唯菜の目をじっと見つめて口を開いた。

「お前の家は、ここじゃねえ。ここは―――もう、他人の家になるんだ」

首を振り、否定する唯菜。

涙を流しながら、まるで自分に言い聞かせるように叫ぶ。

「違う―――ここはあたしの―――あたしと、パパとママの家だよ。2人が帰って来た時、あたしがいなかったら―――パパもママお心配する。だから、あたしがいないと―――」

「唯菜!!」

見ていられなかった。

その肩をつかむ手に、力がこもる。

唯菜がびくりと体を震わせ、目を見開く。

「―――叔父さんと叔母さんは―――死んだんだよ。もう、ここには戻ってこない―――。お前だって、わかってるんだろ?もう―――この家には、戻れないんだよ」

それでも首を振り、否定しようとする唯菜を―――

俺は、思い切り抱きしめた。
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