王子様はカリスマホスト
あたしはその日、学校が終わるとすぐに『ヴァンパイアハウス』へと足を運んだ。

千尋さんは新人なので、一番早く店に行って店内の掃除なんかをすべて1人でやっていると聞いた。

そう、新人のホストは雑用がほとんどで、ヘルプでテーブルに着くことはあっても、自分の客が着くまでは普通の黒いスーツ着用で、牙もカラーコンタクトも、そしてマントもないのだという。

客が着いて初めて、ヴァンパイアになれる、というわけだ。

そしてあの日は千尋さんに初めて客が着いたのだと。

そのお祝いで、店で飲んできた千尋さんが酔ってあたしの部屋で寝てしまった、というわけだった。

そして今日、カラーコンタクトが家に届いて。

それを、あたしが店に届けることになっていた。

『凛斗に持たせるから』

と叔父さんには言われたけれど。

あたしはこの間のことを千尋さんに謝りたくて。

届けたら明るいうちにすぐ帰るから、という約束で、ここまで来たのだった。


扉を開け、回廊を下りて行くと、ちょうど中から千尋さんがほうきを手に出てくるところだった。

「こんにちは」

あたしが言うと、千尋さんがちょっと驚いたようにあたしを見た。

「あれ?何してんの?」

「あの、これ―――うちに届いてたから」

そう言ってカラーコンタクトの入った袋を渡す。

「え―――これ、カラコン?お、やった!サンキュー。オーナーに頼まれた?」

「ううん、じゃなくて―――あの、こないだはごめんなさい」

ぺこりと、頭を下げるあたしを、千尋さんは意外そうに見ていた。

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