王子様はカリスマホスト
はっとして、声の方を見上げると。

そこには、凛斗お兄ちゃんが立っていた。

「あ、凛斗さん、おはようございます!今日は早いっすね」

千尋さんが頭を下げ、あたしから離れる。

心臓の嫌な音は、しなくなっていた。

あたしはちょっとほっとして息をつくと、凛斗お兄ちゃんの方を見上げて―――

その冷たい視線に、ぎくりと肩を震わせた。

「―――ここには来るなって言わなかったか?」

ゆっくりと、回廊を下りてくるお兄ちゃん。

「あの―――千尋さんに、カラーコンタクトを届けに来たの」

「あ、はい。受け取りましたよ、これ」

そう言って千尋さんが持っていた袋をお兄ちゃんに見せた。

「それは、俺が持ってくるもんだろ。親父にも止められたはずだ」

その厳しい声に、あたしは一瞬言葉に詰まる。

「そ、そうだけど―――でも、あたし、千尋さんに話が―――」

「話?必要ないだろ、お前には」

ぴしゃりと言われ、その言葉にあたしはむっとする。

「どう言う意味?あたしは話をしちゃいけないの?」

「ここで、話をする必要はないって言ってるんだ。言いたいことがあるなら、俺に言え。俺が伝える。お前はここに来るな」

あきらかに怒っているお兄ちゃんの目は怖くて。

でも、あたしだって理由もなくここに来たわけじゃないし、納得いかない。

その時、上の扉が開き、作業服を着た男の人が重そうな木箱を抱えて降りて来た。
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