王子様はカリスマホスト
奥のキッチンではママが食事の準備をしていて。

あたしとパパのおしゃべりを、いつもにこにこしながら聞いていたっけ。

冗談を言い合ったり、たまには喧嘩もした。

でも、喧嘩した時にもママは静かに聞いているだけで、何も言わなかった。

不貞腐れて食事の時間にもここに来ないあたしに。

レンジで温めればすぐに食べられるように全部取っておいてくれて。

それを食べて、あたしはいつもパパに謝ってた。

なんだかんだいって、1人っ子のあたしには甘かったパパ。

謝ればすぐに許してくれたし、お願い事もちゃんと聞いてくれた。

『パパの宝物は、唯菜なのよ』

いつか、ママが言ってくれた。

その言葉が、すごくうれしかった。

―――あたしの宝物も、パパとママだよ。

それを口にするのは恥ずかしくてできなかったけれど。

だけど―――

大好きだった―――

「―――どうして、こんなに寒いの、この家―――」

まるで、時が止まってしまったかのように静かだった。

ソファーに座り、膝を抱える。

「―――こんなに、広かったっけ―――?」

新聞とか、雑誌とか。

テーブルの上にはいつも何か置いてあって。

パパの読む本とか、ママが見る雑誌とか。

あれは、どこへ行ってしまったんだろう―――
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