王子様はカリスマホスト
「やっ、何するの!」

あたしはお兄ちゃんの手を振りほどこうとして―――

逆に引き寄せられ、肩を掴まれた。

お兄ちゃんの顔があたしに近づき、その表情が見えた。

「お前の家は、ここじゃねえ。ここは―――もう、他人の家になるんだ」

そう言ったお兄ちゃんの表情は険しくて。

だけど、あたしは首を振った。

「違う―――ここはあたしの―――あたしと、パパとママの家だよ。2人が帰って来た時、あたしがいなかったら―――パパもママお心配する。だから、あたしがいないと―――」

「唯菜!!」

強く掴まれる肩。

あたしはびくりとして、お兄ちゃんの顔を見た。

怒ってるんじゃない。

その目は―――悲しみに揺れているように見えた。

「―――叔父さんと叔母さんは―――死んだんだよ。もう、ここには戻ってこない―――。お前だって、わかってるんだろ?もう―――この家には、戻れないんだよ」

絞り出すようなその言葉に、それでもあたしは首を振った。

「違う―――帰ってくる―――パパとママが―――あたし1人置いて、行くはずない・・・・・。ずっと、一緒だったのに―――!この家で―――!いつも3人で―――!なのに―――あたしだけ置いて―――どうして!!」

「唯菜―――!」

突然、お兄ちゃんがあたしの体を力いっぱい抱きしめた。

まるで、爆発しそうなあたしの心ごと抱きしめようとするかのように。

「いや―――!死んでない―――パパとママは――――死んでない!」

「唯菜―――お前を、守るから―――叔父さんと叔母さんが安心できるように―――ちゃんと守るから―――だから、うちに戻ろう」

優しい、声だった。

今まで聞いたことのないような―――
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