王子様はカリスマホスト
唯菜は震えていた。

自分よりも体の大きな男に立ち向かうなんて、怖くないはずがない。

それでも唯菜は俺のためにあいつに立ち向かった。

俺はその時初めて、唯菜を守りたいと思った。

唯菜を泣かせないように。



ホストになりたいと思ったわけじゃなかった。

ただ、親父をオーナーにするという話に、悪くないんじゃないかと思ったんだ。

だいたい、要領の悪い親父はあの年でどこかの会社に就職したって、窓際に追いやられることが目に見えてる。

人だけはいいんだけどな・・・・・。

親父はずっと、俺にホストをさせることに抵抗があったようだけど、俺は構わなかった。

ウェイターとさほど変わらない。

ただ働く時間が夜になるのと、女の客しか相手にしなくなるってだけ。

それでいい給料がもらえるならそっちの方がいいだろう。

そのくらいの気持ちだった。

でも、いざ横浜に戻りホストの仕事をすることになって。

このことを唯菜が知ったらどう思うのだろう、と考えた。

帰ってすぐは俺も大学の入学手続きやホストクラブの開店準備なんかで忙しくて、他のことをする余裕がなかった。

そしていざ余裕が出て来た時に。

親父や、叔父さんと叔母さんが唯菜に俺のバイトのことを黙っていたことを知った。

考えてみればその時唯菜は中学生で。

多感な思春期真っ盛りだ。

その時期の女の子に、いとこがホストだと知らせるのはいかがなものかと、そう大人が考えたとしても不思議じゃない。

別に恥ずかしいことをしているつもりはなかったけれど。

俺は、自分がホストだと唯菜に言うことも、唯菜に会うこともできずにいた・・・・・。

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