王子様はカリスマホスト
簡単に、追いつくと思った。

行先はわかってる。

自分の生まれ育ったあの家に、行くつもりなんだ。

だけど必死で走る唯菜の足は思いのほか早くて、電車に飛び乗ったあいつのあとを追った俺は、出てくる人に押されその電車に乗り込むことができなかった。


それでも行先はわかってる。

あの家に、必ずいるはず。

そしてあいつの家について。

俺は戸惑いを隠せなかった。

家の付近に唯菜の姿はなく、インターホンを鳴らして見たが、反応はない。

玄関には当然鍵がかかっていて、開けることができない。

中は真っ暗に見えた。

他の窓も雨戸が閉まっていて人の気配がない。

確か、鍵は換えたと親父が言っていた。

あいつも新しい鍵は持っていないはず。

ここじゃないのか?

だが―――

単なる勘だけど。

唯菜はここにいる。

そう思えたんだ。

俺はぐるりと家の周りを回り、1階の部屋の窓を全て見てみたが、中から頑丈に閉められた雨戸はびくともしなかった。

「くそ・・・・・っ」

そして、ふと見上げたのは、2階の部屋・・・・・。

違和感を感じたのは、雨戸の歪み。

微かに、隙間が開いているように見えた。

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