「「キミに…」」 (梓&由浩)




「松本、先生は何て?」

「……………軽い炎症と言われました」



「軽い炎症ね。

なら休憩のたびにアイシングして――…」


「ベネット損傷です」

「え?」


先生(部の責任者)に説明していたら

梓がそれを遮った。



「梓…。」



「……。

新垣の言う通り『ベネット損傷』だね」


「先生!?」


「松本、急がなくてもいいよ。

まだ1年あるじゃないか」


「………。

1年しかないんですよ……。」



そぅ1年しかないんだ。

甲子園に行けるのは限られてるんだ。

全国で、すげぇ人と勝負したいんだ。

強い奴等を倒したいんだ。







「松本、症状は軽いんだろ??

だったらポジティブに考えないと。

辛いけど『まだ』1年。

『もぅ』1年なんて考えたらだめだろ??」



藤井先生(責任教師)は、

部活の中でも1番ポジティブで有名な人。

そんな人からそんな事言われると、

脱力する。




そのことを監督にも報告して、

その時に雅也先輩と仲良くなった。



「雅也、今日から由浩とな」

「はい」


雅也先輩は俺が2年のときの3年で

絶対的なエースだった。



でも少しだけ腰と膝の調子が悪くて、

1時間でゆっくりアップをしていた。

ブルペンでも投球数を少なくしているのに

調子を、実力を落としていない雅也先輩は

今でも俺の中では1番の先輩だ。





『練習時間は少なくても

1球1球を考えながらしたら、

それは20球投げたのと同じ収穫だと思う』



だから俺もそれを意識して練習した。

怪我も半年もしないで完治して、

春の選抜甲子園にも出る事ができた。



雅也先輩は大学から推薦があったのに

その推薦をけって就職した。

しかも野球部には入部しないで。

きっと腰も膝もボロボロだったんだろう。

でも偉大な先輩なのは

今も同じ。






< 16 / 26 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop