【短編】 ききたいこと

 先生のようないい人にすこしでも近づきたいと願うならまず強行手段に出る前に、自分も恥ずかしくない行いができるような清らかな人間になるべきなのではないか。

 一時的にとはいえ、平気で悪魔に心を受け渡すことの出来る私が、先生を好きでいていいはずがない。


 それなのに。


 先生は、こんな私を欠片も責めようとはせず、むしろそれ以上に優しくしてくれて―――。


[わからないところがあったらまたメールしてくれ]


 そんなことまで言われたら、先生を忘れられなくなるでしょう?
 先生をますます好きになってしまうでしょう?

 いますぐにでも、この想いを伝えたいとおもってしまうでしょう―――?


(……先生は、罪な人だ)


 私とは全然別の意味で。
 だからますます私は苦しい。

 こみあげる熱いものをぐっと堪えて、


[ありがとうございます、助かりました。
またメールします]


 とだけ返信した。

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