【短編】 ききたいこと

Ⅲ－Ⅱ

　＊

　職員室に連れて行かれるまで、ひょっとすると先生とメールしていることがばれたのではないかと焦った。
　けれど、改めて思い返してみれば、私のような特別な感情を抱いてメールのやり取りをしている人はいなくとも、生徒と連絡を取り合ってる先生なら多くいるはずで―――先生が注意してくださいと言うはずもないことはわかりきっているし―――
　ならば、いったいなにを言われるのだろう。

「そこ、座れ」

　アゴをしゃくり、長里は丸椅子を勧めた。言われたとおり腰を下ろす。
　長里の斜め前の席にちらりと視線を動かす。どうやら、先生はまだ授業から戻っていないらしい。

「ちょっとで済むかはおまえの返事次第だ。あまり時間を取らせるなよ」

　だったらそのような前置きなど言わずさっさと進めろ、そう言ってやりたいところをぐっと堪えた。

「……なんでしょうか」
「単刀直入に言うぞ。実は昨日の放課後、おまえのお母さんから連絡が来た。塾のことで、だそうだ。―――先生がなにを言いたいのかわかるか？」
「それは―――」
「三日遅れだぞ。次からは提出期限守るように、な」
「はーい藤堂先生」　　

　不意に、背後から大好きな先生の声がして、声が止まる。

　どうしてこのタイミングで戻ってくるんだ……！　こんなところ、先生に見られたくないのに。
　私はぎりと奥歯を強く噛みしめた。