【短編】 ききたいこと
長引けば軽く十時までは塾にいます。
長里はさすがに驚いた表情を見せた。してやったり、だ。
私は塾の中でもトップの成績を誇る者しか入ることを許されない特別進学クラスに籍を置いている。
普通のクラスにいる生徒たちにはそのように来いなどという電話はかかってこないはずだ。
通称Sクラスと呼ばれる特別進学クラスは、有名大学に現役合格させることを目的として選出された生徒たちの集まりである。
そんなずば抜けて賢い生徒しか選ばれないクラスになぜか私までもが選ばれてしまった。
「それは……多いな。行きたくない気持ちもわからなくもないな」
「わかっていただけて嬉しいです。だけど」
「なんだ?」
「あまり軽口でそういうことを言わないほうがいいですよ」
直後、私の後ろで食事をしていた現代文の先生がぐっと喉を詰まらせる音が聞こえた。
「わ、悪かったな。そ、それでだ、とにかくおまえのお母さんは佐々倉に塾に行って欲しいんだそうだ」
ようやくはじめの話に戻った。というか、長里が体勢を持ち直すために無理矢理戻した。
しかし私はきっぱりと言った。
「私は、行きません」
はっきり返されるとは思いもしなかったのだろう。長里は一瞬、きょとんとした表情になった。
「お母さんが行って欲しいと言ってるんだ」
一向に食い下がろうとしない。
私も負けじと言う。
「行きません!」
そのやり取りが5回ほどつづいて、
やがて、先に折れたのは―――