【短編】 ききたいこと
Ⅲ-Ⅲ
「―――佐々倉!」
1階と2階を繋ぐ踊り場まで来たとき、後ろから名を呼ばれ―――私は立ち止まった。
長里だったらシカトするところだが、声はまさかの先生のものだった。
振りかえると、先生が私を手すりに手をつきながら見上げていた。
目と目が合って、心臓がうるさく音を立てる。
追い着いた、と無邪気に笑いながら言うところも、彼は罪だと思う。
……そんな顔されて、ときめかないやついないじゃん。
先生にばれない程度に唇を尖らせ数段下りて先生と向かい合った。
「なんでしょうか」
長里のときとは明らかに違う、女が強く前に出た可愛らしい声音がこぼれた。バカかと己に突っ込む。
「これな、点検終わったから返しておいてくれないか」
渡されたテキストの氏名記入欄を見るとそこにはクラスメイトの名前があった。
「わかりました」
……なんだ、そんなことか。
もちろん声には出さないけれど、残念でならない。
ここで、だいじょうぶか? とか心配してくれたら、私もう、飛びついちゃうな。
「それじゃ」
「あ……はい」
先生はあっさりと階段を下りていってしまった。