【短編】 ききたいこと
しばしその後ろ姿を眺めていたけれど、やはり足を止めることはなさそうだと思い、私も踵を返した―――
「佐々倉」
とそこで、まさか先生はもう一度私の名を呼んだ。
1階と踊り場ではさして距離もないけれど、ロミオとジュリエットな気分である。ああ先生、あなたはどうして先生なの?
愛おしくてたまらない。いますぐに先生の胸に飛び込みたい。
「どうしたんですか」
と訊いた瞬間、先生の視線が私から、私の後方へ―――階段を下りてきた生徒たちのほうへ移された。
「それ、頼むな」
求める視線が自分に戻ってきたと同時に先生はそう言って微笑むと結局、職員室へ帰ってしまった。