【短編】 ききたいこと

 先生に食べられるために選ばれたメロンパンはなんて幸せなんだろう。先生の昼食にさえ興奮してしまう私。

 ……いちど、座禅でもしに山へ行ったほうがいいかもしれない。

 テストが終わったら考えてもみようかと真面目に思った。
 頭のてっぺんから湯気が出そうな勢いだ。

「あ、あの―――さよならっ……!」

 上手く表現できないが、なにかに限界を感じて私は逃げるようにその場を去った。

「あっ、おい佐々倉―――」 

 自分の名を呼ぶ先生の声が聞こえたけれど、振りかえることはしなかった。出来なかった。

 ……やっぱり先生は罪な人だ。

 人が必死に我慢しているのに現れるなんて、しかも無邪気に笑いかけてくれるなんて………

 ―――いじめじゃないか。
 神様はなんて意地悪な存在なんだろう。

(ああ、でもあの笑顔でご飯三杯は食べられそう……)


 家までの帰り道、あまりにもぼんやりし過ぎて何度か車にぶつかりそうになったことは私だけの秘密である。


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