【短編】 ききたいこと
「今日、なんか様子おかしかったから。元気なかっただろ?」
……誰のせいだと思ってるんですか。
先生があまりにも無邪気すぎるせいですよ!
とは、言えるはずもない。
「なんともないですよ。私は元気です」
「そうか。それならいいんだけど……」
とそこで、先生はふっと自嘲気味に笑った。
「どうかしましたか? 私、なにかおかしなこと言いましたか」
「いや、そうじゃないんだ。なんというか、今までずっとメールで佐々倉に勉強教えてただろ。それが最近なくなったから、ちょっとだけ虚しいんだよな。佐々倉ほど熱心に聞いてくる生徒、なかなかいないから……なんて、おかしいな俺。悪い」
「い、いえ……」
本当は―――毎日だってメールしたいんです。もっとたくさん聞きたいことはあるんです。先生さえよければメールじゃなくて、電話をしたい。声で、繋がっていたい。
そう、言いたかった。言ってしまいたかった。
けれど、それではせっかく自分で決めたことの意味がなくなってしまう。
すべてが水の泡である。
のど元まで出かけた言葉を私は決死の思いで飲み込んだ。