【短編】 ききたいこと
穏やかな声が不意に背後で聞こえてきたかと思い、振りかえると、隣の階段から現れたのは藤堂先生だった。
何度見ても、先生の細みな体型にはスーツがよく似合う。女性のようなくびれすぎないほどよいくびれがスーツの線に沿ってすごく素敵。思わず見惚れてしまいそうになる。
「藤堂先生。聞いてらしたのですか」
「はじめからではないですけど。通りすがりにたまたま聞いてしまって。まあ先生、なにはともあれ佐々倉と和解できてよかったですね」
先生がそう言うと長里はええまあとぼそぼそ言い、照れ隠しか顔を背けた。
その隙に先生が私に向かってウィンクを飛ばした。
次の瞬間、心にぐさっという生々しい音が弾けた。
(まずい、鼻血……出そ)
今のウィンク、なんとかタイムマシンに乗って過去に帰り録画することは出来ないだろうか。頭から湯気が出るぞこれは。
「そういえば佐々倉。やったな、期末試験。3番だったじゃないか、おめでとう」
「えっ、あ、は、はい」
マフラーがないことがこんなに不便だったなんて。
顔を隠す術がまったく見つからない。
私は挙動不審気味に視線を左右に移動しながら「あ、ありがとうございます」とぎこちなく返した。
大変だ、顔がものすごく熱い。
どうしよう、長里に私が先生のことを好きなことがばれてしまったら。
しかし、
いくら心配しようとこの顔に集まる熱は止められない!
少なくとも、先生が目の前で微笑み続ける限りはぜったい!!