【短編】 ききたいこと

 先生には申し訳ないが―――内心、すごくほっとしてしまった。

 どうやら先生には恋人という恋人はいないらしい。

 ということは、私も一応、先生の隣に滑り込める可能性はあるということだ。

 そう思うと、悪いとは思いつつもやはり、どうしても自然と頬が緩む。嬉しくなって仕方がない。
 背後に隠した手で小さくガッツポーズを決めた。

「それじゃあ、俺も行くな。気をつけて帰れよ」
「あっ、せ、先生待って―――っ!」
「ん? どうした佐々倉」

 名前を呼ばれるたび心臓がどくんと大きく飛び跳ねる。
 子供のようにきょとんとして首を傾げる仕草に胸がきゅうと締め付けられる。
 私は一度視線を左右に往復させるとしばしの沈黙を挟んで―――

 それからやっとの思いで顔を上げた。

 そして、

 震える唇を叱咤して、のど元で詰まる声を懸命に紡いだ。


「……あの、よかったらまた、質問してもいいですか?」 



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