【短編】 ききたいこと
先生はまたきょとんとして私を見つめた。
青年のような先生のあどけない眸にのぞかれて、私はどうしようもない恥ずかしさでいっぱいになり、俯いた。
視線をそらしたら、好きだということがばれてしまいそうで―――ほんとうは力強いまま見つめ返したかったけれど、そんなことを気にしていられる余裕はいまの私にはとてもじゃないけれど、なかった。
先生に見つめられると、それだけで好きが溢れて苦しくて。
先生に見つめられると、言いたくて言えない言葉が変な勢いに乗っかってこぼれだしてしまいそうで。
先生に想いを伝えたい。
伝えたくて伝えたくて伝えたくてしょうがないけど、
伝えてこれまでの関係でいられなくなることが、やっぱり怖くて。
こんなに近くにいるのに、先生は、すごく遠い存在。
先生へ想いを告げる一歩は、とてもとても重いもの。
先生との間に立ちはだかる壁はとんでもないくらい厚くて、どんな陸上選手でも飛び越えられないくらい高くて、今の私にはとてもじゃないが越えられない。
―――だけど、越えられないものなんてあるはずがないんだと思うから。
実現しようと思えば、出来ないことはないと、今回のことでわかったから。
厚くて越えられないなら、すこしずつすこしずつ壊していけばいい。
高くて越えられないなら、すこしずつ低くして、またげるくらいまで下がったらいつか、自信を持ってジャンプしてやる。
だから―――。
(だから、いまはまだ、これでもいい―――)
一つ、深呼吸をして顔を上げる。
―――上げようとして不意に、頭に手を乗せられた。