【短編】 ききたいこと
 
 誰も見ていないことを確認し、プリントを拾い上げると、どうやらそれは部活の連絡網のようだった。部員全員の携帯番号もしくは固定電話の番号が掲載されている。
 その連絡源に先生の名前はあった。

 090からはじまるということは、これは携帯の番号で間違いない。

 私はごくりと唾を呑んだ。

 そして慌ててカバンの中からノートを引っ張り出すと、置いてあったペンを掴んで先生の番号を書き写した。

 無我夢中だった。
 周りなど一切見えなくなっていた。

 罪悪感に似た後ろめたさを覚えたのは、写し終えたあとだった。

 動悸が激しい。
 最後の真っさらなページに浮かぶ11桁の数字を見つめながら、わずかに呼吸が速くなっていることに気づいた。


 ―――ここにいちゃいけない。


 そう、直感めいたものを感じた。
 私は連絡網だけを机にしまい入れると、即座に荷物をまとめ、一目散にその場から逃げ出した。

 家までの道をわずかにもスピードを落とすことなく走り続けながら、万引きしたときってこんな感じなのかなとそんなことをふと思った。

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