i want,
「なぁ、」と卓也が振り向くと、「そうじゃー」と声が聞こえる。
その声に、あたしは一瞬心臓が跳ねた。
卓也と福山の間から見える制服。面倒くさそうに頭をかき、同時に大きなあくびをする。
久しぶりに、垣枝を見た。
「ほら、行くで」
「おぉ。んじゃな、あお」
「あ、うん。またね!」
垣枝の声で、足を止めていたみんなは歩きだした。
階段を上らずに右に曲がる。多分、垣枝のクラスだという4組に行くのだろう。
制服のポッケに両手を突っ込み、変わらない小生意気な雰囲気をまとう垣枝。
その髪は、小学生の頃より少しだけ伸びていた。
前髪の下の目が、階段の上に座るあたしの方を向く。
見上げる視線があの神楽の日とリンクして、一瞬、衝動が蘇った。
でもそれはほんの一瞬で、垣枝の視線はすぐに流れる様に前へ戻る。
残ったのは、あたしのうるさい心臓の音だけだった。