i want,
「あおいって名前可愛いね。あおいって呼んでいい?」
普段みんな『あお』と呼ぶからか、その響きは何だか新鮮だった。まだどこか固さの残る声であたしは返事をする。
「う、うん!あおでもあおいでも何でも」
「やった。じゃああたしのことは、美晴って呼んでぇや。お互い名前でってことで」
そう言うと彼女はひょこっと立ち上がり、由利のグロスを「貸してね」と手のひらで回した。
「後で返してよー!」
由利の声にひらひらっと手をふり、軽やかに階段を降りていく。短いスカートが足をつく度に揺れる。金髪だけじゃなく、なんだか彼女を取り巻く全てが普通じゃない様な気がした。
さっき垣枝達が曲がった4組の方に彼女も曲がり、その綺麗な金髪がさらっと影に隠れる。
階段に残されたのは、彼女のアナスイの残り香だけだった。