i want,
「あおずるーい!綾もアナスイ貸してって言ったんにさぁ」
「だって綾の香水の匂い嫌いなんじゃもん。甘過ぎ」
「ちぇー」
口を尖らせる綾に冗談半分で美晴のアナスイを吹き掛ける。
驚いた綾は「ちょっとー!」と粒子を手で払い、あたし達はそれを見て笑った。
そんな意味もないふざけあいが、今は一番楽しい。
「あーおちゃんっ」
あたし達がじゃれあってる上から、不意に綺麗な声が聞こえた。
みんな一斉に顔を上げる。階段の上から覗いていた、茶色い髪が揺れる。
「エリカ先輩!」
エリカ先輩は髪を耳にかけ、ニコッと笑った。その仕草ひとつひとつが、目を見張る程に大人で。
「あおちゃん、ジャージのサイズ何?」
「え?Mですけど…」
突然降ってきた脈絡のない質問に首を傾げる暇もなく、エリカ先輩は「よかった!」と駆け降りてきた。
女物の香水の香りが入り交じっている階段に流れてきた、男物の香水の香り。
この香りは、よく知っている。裕ちゃんの香りだ。
「はい、あげる」
エリカ先輩が差し出したショップバッグに入っていたのは、先輩の名字が刺繍されているジャージだった。あたしは目を丸くして顔を上げる。