i want,

「あおずるーい!綾もアナスイ貸してって言ったんにさぁ」
「だって綾の香水の匂い嫌いなんじゃもん。甘過ぎ」
「ちぇー」

口を尖らせる綾に冗談半分で美晴のアナスイを吹き掛ける。
驚いた綾は「ちょっとー!」と粒子を手で払い、あたし達はそれを見て笑った。

そんな意味もないふざけあいが、今は一番楽しい。


「あーおちゃんっ」


あたし達がじゃれあってる上から、不意に綺麗な声が聞こえた。
みんな一斉に顔を上げる。階段の上から覗いていた、茶色い髪が揺れる。


「エリカ先輩!」


エリカ先輩は髪を耳にかけ、ニコッと笑った。その仕草ひとつひとつが、目を見張る程に大人で。

「あおちゃん、ジャージのサイズ何?」
「え?Mですけど…」

突然降ってきた脈絡のない質問に首を傾げる暇もなく、エリカ先輩は「よかった!」と駆け降りてきた。

女物の香水の香りが入り交じっている階段に流れてきた、男物の香水の香り。
この香りは、よく知っている。裕ちゃんの香りだ。

「はい、あげる」

エリカ先輩が差し出したショップバッグに入っていたのは、先輩の名字が刺繍されているジャージだった。あたしは目を丸くして顔を上げる。

< 135 / 435 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop