i want,
教室に続く廊下を歩きながら、思い出した様に綾が言った。
「そいやあおさ、髪染める気ない?」
「髪?」
未だ黒いあたしの髪をさらっと遊ばせ、綾は続ける。
「姉ちゃんがブリーチの残りくれたんじゃけど、綾のイメージじゃないんちゃ。ちょっと大人っぽい感じでね。あおに似合う気がするんじゃけど、どう?」
「あお大人っぽいけぇね」、そう頷く由利の髪も、綺麗な茶色に染まっている。勿論香緒も、春先に綾が染めたままの色だ。
「ブリーチかぁ」
あたしは伸びた自分の髪をつまむ。自分が髪を染めるなんて考えたこともなかったけど、興味がないわけじゃない。
同時に、罪悪感も。
「染めるんじゃったら、週末綾んちおいでよ。姉ちゃんおるけぇやってもらえる…っとぉ!」
教室のドアを開けながら話していた綾が、ガラッという音と同時に立ち止まる。
綾の足を止めたのは、丁度教室を出ようとしていた女の子達。見覚えのある顔に、あたしは笑顔を消す。
一小のメンバー。
その中には、みどと歩夢の顔も見える。
一瞬、みどと目線が合った。反らしたのは、みどの方だった。
一小の子達があたし達に道を譲る様によける。みんな、心なしか視線が泳いでる。