i want,
…制服が半袖に変わり、明るくなった自分の髪にも慣れてきた夏の始まり。
慣れてきたのはそれだけじゃなかった。中学生活にも、新しい世界にも、あたしはもう何の違和感も抱かない。
随分前からそうであったかの様に、あたしは新しい世界を自分のものとして確立していた。
黒髪の頃のあたしでさえ、遥か昔であったかの様な錯覚すら覚える程に。
「じゃあ、うちらこっちじゃけ」
裏門から出た方が近い香緒と由利と別れて、あたしと綾は正門へと向かった。
「あっついねぇー」
綾はその細い手首をおでこにかざした。
露出されているあたし達の腕には、同じシルバーのブレスレット。
お揃いという存在が小学生の頃の嫌な記憶を呼び覚ますかと思ったが、意外にもそんなことはなかった。
あたしはもう、過去を過去にできているのかもしれない。
しゃらっと揺れる綾のシルバーを見つめながらそんなことを思っていると、突然綾の横顔がぱあっと明るくなった。
「神ちゃんだ!」
「神ちゃーんっ!」と綾が手を振る方向に視線を向ける。
正門の隣。アクエリアスを片手にしたさとが、綾と同じ様に手を振っていた。
その隣で正門に背を預けているのは、垣枝。