i want,
「髪」
そんなことを思いながら仲のいい二人を眺めていると、不意に隣から声が届いた。
思わず視線を向ける。
「髪、伸びたのぅ」
つんとあたしの髪を引っ張る垣枝。毛先にまであたしの体温が届きそうで、少し焦る。
「垣枝だって…」
「あ?」
垣枝を見上げる。そう、見上げていた。
伸びた前髪の下にある小生意気な目も、緩い弧を描く唇も、あの頃よりも高い位置にある。
「…背、伸びたんじゃない?」
「おう、伸びた伸びた。毎晩節々が痛ぉてやれんわ」
んっとその腕を伸ばす。細かった腕は、幾らかがっしりしてきた様に思う。
小学生の頃とは違う。
人の成長をこんなに目の当たりにすることなんてあるんだ。
まだ子どもだけど、それでも、垣枝の中の大人が見え隠れしている気がした。
「おーい!帰るよー」
気付いたら綾達はもうだいぶ前を歩いていた。マイペース二人組。あたしは仕方なく、垣枝と二人、夕焼けの道を歩き出した。
二人の影がゆるく伸びる。
時たま届く綾の高い笑い声が、バックミュージックの様に浮かんでは消えた。