i want,
「…大丈夫じゃ」
全てを見透かした様な垣枝の声が、あたしの顔を上げさせた。
隣を歩く垣枝。顔はただ、真っ直ぐ前を向いている。
そしてただ、言い聞かせる様に言った。
「あおには俺らがおるが」
…それはまるで、ひとつの呪文の様で。
すっと不安を、夕焼けと共に沈めてくれた。
残ったのは、甘い鼓動。
痛いのに、それは決して嫌なものじゃない。
「…うん」
あたしは、顔を前に向けて言った。
「ありがとう」
我ながら素直に言った一言は、遠くの綾の笑い声の中に消えた。オレンジ色のアスファルトを見ながら、あたしはただ足を進める。
垣枝の顔は見れなかった。
でもきっと、あの笑顔であたしを見ていると思った。
何故だかそう、確信していた。
それから二人は、ただ黙って夕焼けを歩いた。
よく考えたら、垣枝とこんなに話すのは久しぶりだと思った。
それでもあたしは、確かに居心地のよさを感じていた。