i want,


……………

明けない夜はないと言うように、沈まない太陽もない。

あたし達の水分を散々奪っていった太陽は、気付けば山裾に半分ほど隠れてしまっていた。

夏の夕焼けはなんだか切ない。
幼い頃、有希や誠達と遊んでいて、この時間がくるのが一番嫌だったことを思い出す。

その感情は、少しだけ大人になった今でも変わらない。


新幹線の時間だからと、真依は一時間前に帰って行った。

今日は家族で大阪へ戻るらしい。

ほんの一瞬だったけど、真依との再会はあたしの心に大きなゆとりを生んだ。

そして同時に、いなくなった後のこの喪失感も。


…「そろそろ火通ったんじゃない?」
「うん、いい感じ!後は煮込むだけじゃねっ」

家庭科室に充満する、約20人分のカレーの匂い。

グツグツと美味しそうな音は、夕方といえどもまだ暑い夏の教室を更に暑くさせる。

女子がみんなでカレー鍋を覗く中、あたしは一人食器を洗っていた。

小学生の時にできた壁は、中学生になって更に高くなった。高くしたのは、あたし自身だけど。

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