i want,
第一章
10歳の春
……………
この桜並木を走るのも、もう五年目に入った。
桜の花びらが口に入る。
ぷっと吐き出し、後ろに叫んだ。
「ゆーきっ!はよ走らんと!」
「もー待ってぇや!あおちゃん速すぎなんじゃけ」
「そんなん言っても遅刻じゃろ!」、そう言いながら有希の手を取り、再び全力疾走。
満開の桜を楽しむ余裕もなく、あたし達は古ぼけたランドセルを鳴らしながら花びらのシャワーの中を駆け抜けた。
…「間に合った?」
坂の上にある錆びた門に手をつき、上がった息を整えた。
なんで新学期そうそう、こんな目にあわなくちゃいけないんだ。
「もう…無理、歩けん、」
「ほら、立たんにゃ。クラス割り見に行かんと」
小さな体を地面に放り投げていた有希を起こし、下駄箱に向かった。