i want,

ヒカルのおばさんには会ったことがある。

ヒカルの家から帰る時、丁度玄関で鉢合わせた。
でも何を言うわけでもなく、ぺこりとお辞儀をしただけで、その時のイメージしかない。

優しそうな人だと思った。
でもその優しさが、ヒカルに向いているとは思えなかった。

「だから…学校休んでるんだ」
「何も休ませることないと思うんだけどね。あのおばさんのやることは、よくわかんない」
「…おばさん、ヒカルに優しい?」

あたしの問いに田口は少し視線を上げて、でもすぐにテーブルの上に戻した。
それが答えの様な気がした。

「よく知らない」

…ヒカルの家は、よく荒れていた。
汚いとかじゃなくて、片付けてない感じ。洗濯物がそのままになっていたり、洗い物がされてなかったり。

ご飯もあまり、ちゃんとしたものを食べている様ではなかった。だからあたしはカレー以外に、肉じゃがとかオムライスとか、簡単なメニューを覚える様になった。

そんな状態を知っていたから。
だからあたしはあの時、おばさんにちゃんと挨拶しなかったんだと思う。

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