i want,
「…大人って、勝手じゃね」
あたしは呟いた。
田口は何も言わなかった。
ヒカルに優しくない人は、いくら母親でも、嫌いだ。
「矢槙、ヒカルとまだ付き合ってるんだね」
突然変わった話題に、あたしは少し驚いて顔をあげた。
何も変わらない表情で、田口があたしを見ていた。
「そうだけど…」
「へぇ」
少しだけ口の端を上げて笑う田口。この表情が、昔の田口の言葉を思い出させた。
「…田口」
あたしは手を膝の上に置き、それを口にする。
「昔言ったよね。あたしには…ヒカルは無理だって」
いつか田口に言われた。
あたしには、ヒカルをわかることはできない。ヒカルは普通じゃないんだ、と。
その意味を、今知りたい。
「…言ったね」
「あれ、どういう意味なん?」
田口はあたしから視線を反らし、小さく笑ったまま「そのままの意味だよ」と答えた。
「ヒカルは誰にも心を開かない。だから、矢槙にもわかりっこない」
「そんなことない」
「そんなことあるんだよ」
「だってヒカルは…っ」
ついカッとなって声を荒げた。それでも田口は冷静だった。