i want,
そう言い残し、あたしは田口の部屋を駆け出した。
靴を履きながら、我ながら理屈の通らない答えだと思う。
でも、そうとしか言えなかった。
『ヒカルは誰にも心を開かない』
あたしよりも長くヒカルを見ている田口が、そう言うのだ。もしかしたら、そうなのかもしれない。
それでもあたしに見せた今までのヒカルが、ヒカルの心の入り口だと思う。
だったらあたしは、ヒカルの心に入る鍵をきっと持ってる。
あたしがヒカルを求めている限り、それはきっとなくならない。
冬の寒空の下、走りながらただ、ヒカルに会いたいと思った。
…ヒカル。
あの時田口が言ったことは、間違ってなんかなかったね。
あたしは思い上がってた。
あたしはヒカルの全てをわかってあげられると、受け入れてあげられると、ずっとそう思ってた。
あたしがヒカルを求めている限り、それは変わらないと、ずっと。
…ごめんね、ヒカル。
ヒカルはずっと、あたしに鍵をくれていたのに。
開けずに投げ出したのは、あたしの方だった。