i want,
たった一言。
ヒカルがあたしに残したのは、たった一言だった。
頭から手を離したヒカルは、そのまま踵を返した。足音が遠ざかる。ヒカルの体温が遠ざかる。
何か言いたかった。
でも何も言えなかった。
視線さえ、上げれない。
「…ヒカル」
足元を見たまま、ただ名前だけを呼んだ。
それは掠れて、声にならない。
歪んだ視界のまま、あたしはその場にしゃがみこむ。
『大丈夫じゃけぇ』
…大丈夫なんかじゃ、なかった。
理由もわからないのに、胸が痛くて苦しくて。
あんなに会いたかったヒカルが、あんなに触れたかったヒカルが、遠くて仕方ない。
ねぇヒカル。
何でそんなに、冷たい声をしてるの。
何でそんなに、冷たい目をしてるの。
ねぇ、ヒカル。
あたし、ヒカルがわからない。