i want,
「…みど、が…」
「え?」
嗚咽混じりの声を聞き取ろうと、あたしは歩夢の顔を覗き込んだ。くしゃくしゃの顔のまま、歩夢は小さく呟いた。
「みどが、垣達に連れてかれた…」
…一瞬、目の前が灰色に染まった。
歩夢はしゃくりあげながら、ただ「ごめん」と繰り返す。
連れてかれた?
どういう意味?
声にならない疑問が、ただあたしの頭の中に響く。
衝撃を受けたままのあたしに、歩夢はか細い涙声で続けた。
「多分…垣に、手紙のことがばれて…垣、凄い怖くて…垣のグループの男子も、いっぱいいて…なんか、ほんと、こ、怖くて…」
歩夢の話が、あの日のヒカルを蘇らせる。
渡り廊下の真ん中。
冬の寒さより冷たい、ヒカルの瞳。
「止められるの、多分、あおだけやけぇ…。じゃないと、みど、みどが…っ」
それ以上何も言えなくなった歩夢は、ただ泣きながら俯いた。