i want,
ぽつっと、ココアが揺れた。
雨?そう思ったが、それが雨じゃないことはすぐにわかった。
ふたつ、みっつ、ココアに雫石が落ちる。
胸が痛い。
「…ごめ、」
急いで目元を拭ったが、一度降りだした雨はやまなかった。
あたし、何泣いてるんだろ。
人を見下した様な視線。
小馬鹿にした笑顔。
誰にも支配されない、強い芯。
あたしを呼ぶ、少しだけ優しい声。
あたしがずっと、求めてやまなかったヒカル。
そんなヒカルは、もう。
そう思うと、息が止まりそうな程苦しい。
痛くて痛くて、どうしようもない。
救いを求めた手を握ってくれたのは、いつもヒカルだったのに。
…ヒカルだったのに。
「…俺、矢槙が好きだった」
呟いたのは、田口だった。
空気が、時間が、全部止まったかの様な一瞬。
耳を疑うことすら、忘れた。
「いや…過去形にするのはおかしいか。多分、まだ好きだ。いつからなんて聞くなよ。俺だってよくわかんないんだから」
冷たくなったココアを飲む田口は、まるで他人事の様な口調で続ける。
それだけ、田口の中では戸惑いがないことが伝わる。