i want,
昔は大嫌いだった。
生意気な口調も雰囲気も、全てが変わったわけじゃなかった。
でもあたしの中で田口の存在は、そんな簡単なものじゃなくなってた。
いつも的確な答えをくれる。
ぶれない自分を持ってる。
どこかヒカルと似ている所でさえ、田口は田口だった。
あたしの中の田口は、田口だけだった。
背中を向けたまま、ぶっきらぼうに片手を上げ、そのまま田口は歩き出す。
あたしはそこに立ったまま、見えなくなるまでその背中を見つめていた。
やがてそれが見えなくなり、静止画の様な風景が戻ってくる。
…人は変わる。
気持ちも変わる。
今あたしは、正にそのど真ん中にいる。
変わっていく世界の中で、ただ一つ、不変を求めたものでさえ。
不意に視界が陰った。
空からまた、小さな雪が降りだした。
冷たい世界の中で、あたしは傘もささずに膝を抱える。
…ただ一つ不変を求めたものでさえ、あたしは今、自ら終わらせようとしているんだ。
それしかもう、この苦しさから逃れる術を知らないから。