i want,
速いペースの心臓が、あたしを焦らす。

少しだけ深呼吸をして、あたしはゆっくりとその四つ折の紙を開いた。

カサッと紙が音をたてる。
自分の手が震えていることに気付く。

紙を開いた瞬間、全てを知るのが怖くて、目を閉じたくなった。

それでもかろうじて開けていた瞳に映ったのは、たった一言。

なのにあたしはその瞬間、潰された様な胸の痛みに襲われた。

たった一言。
あたしが発した、一言。


『ばいばい』


まるで走馬灯の様に、あの日の出来事があたしの脳裏を駆け抜けた。

あの渡り廊下。
ヒカルの爪先。
終わりを告げたあたしの声と、痛くて泣きそうになった、ヒカルの腕。

残った、ヒカルの香り。


「…ヒカル」


呟くと同時に、駆け出した。
今行かなきゃ駄目だと、どこかで誰かが告げていたから。


言われて初めて気付いた。

それがどれだけ、痛い言葉かを。














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