i want,


……………

もう感覚で覚えている道を走った。学校の帰り、夕焼けのこの道を何度二人で歩いただろう。

幸せは確かにあった。
満たされない苛立ちに、塗りつぶされているだけで。

その時はもうどうしようもないと感じてしまう辛さも、時間がたてばどうにかなることだってあるのに。

なのにどうしても、そのことに気付けないのだ。


ヒカルの家の前に着いた時、あたしの息はきれていた。

ゆっくりと息を整えながら、気持ちも整えていく。

ここに来て、ヒカルに会って、あたしは何を言うつもりなんだろう。

ヒカルが返してくれた終わりを告げる言葉。
その痛みに耐えきれなくて、思わず駆け出した。

ヒカルを信じきれない痛み。わかりきれない痛み。

それとこの痛みと、どちらが辛いものなんだろう。

わからないけどただ、今ヒカルに会いたかった。


会って答えが、知りたかった。


最後にもう一度深呼吸をして、あたしはヒカルの家の呼び鈴を鳴らした。

部屋の奥で音が鳴るのがわかる。でもその返事はない。

あたしは視線をずらして、ポストを見た。いつかこの裏に、あたしの名前のない相合い傘を落書きした。そのポストは今、空だった。

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