i want,
「もう、あおちゃんが食べ過ぎたけぇ走らんにゃいけんくなったやん」
「はぁ!?有希のがいっぱい食べよったし!」
「いーや、絶対あおちゃん!」
あたし達のいつもの言い合いが古い校舎の廊下に響く。
いつも見掛ける通学路のさくらんぼの木。
春休みを終えて久しぶりに会ったそれには、ぷっくりとみずみずしいさくらんぼが大量になっていたのだ。
ひとつのつもりが、余りにも美味しいそれにふたつみっつと食が進み、犬の散歩のおばちゃんに時間を告げられるまで遅刻寸前なことに気付かなかった。
…うん、どっちもどっちだ。
「…あ、クラス違う」
有希の方が先に名前を見つけた。
指差す方に目をやると、有希の名前は一組。そこにあたしの名前はなかった。
「まぁた離れたね。一、二年の時だけじゃったねぇ」
残念そうに溜め息をつく有希。あたしも確かにショックだった。
うちの学校は二年ごとにクラス替えをする。つまり、五年生のクラス替えが事実上最後のクラス替え。もう有希と同じクラスになることはないのだ。
「あ、あおちゃんの名前あった!」
また見つけたのは有希。首をずらすと、あたしの名前は三組にあった。
ざっとみて、何人か知った名前を見つける。