i want,
忘却
……………
ゴッというトンネルを抜けた音で、目が覚めた。
寝ぼけ眼で窓の外を見ると、見覚えのある景色が広がっている。
なだらかな緑に沈む夕日に懐かしさを感じながら、ようやく電波が入った携帯をあけた。
『駅まで来ちょるけぇ。着いたら南改札出ぇや』
「全然方言抜けてないし」
思わず笑いながら独り言を言ってしまった自分に恥ずかしくなり、周りを気にしながら鏡でメイクをなおした。
新幹線のアナウンスが、聞き慣れた駅名を告げる。
あたしは鏡を閉じて、軽く深呼吸をする。
変わらない新幹線の中の空気が、少しだけ懐かしいものになった気がした。
「あお!」
南改札を出るとすぐ、あたしを呼ぶ声が聞こえた。
視線をやると変わらない笑顔。あたしも思わず笑い、駆け寄った。
「さと!久しぶり!」
「なんかぁ、全然変わってないのぉ」
「さとこそ。背、縮んだんじゃない?」
「なわけなかろぉが!」
笑いながらそんな下らないやり取りをする。昔と何ら変わらない関係が、やっぱり嬉しい。
冷たい冬の空気に二人揃ってマフラーを上げ、おかしそうに苦笑した。