i want,

忘却



……………

ゴッというトンネルを抜けた音で、目が覚めた。
寝ぼけ眼で窓の外を見ると、見覚えのある景色が広がっている。

なだらかな緑に沈む夕日に懐かしさを感じながら、ようやく電波が入った携帯をあけた。

『駅まで来ちょるけぇ。着いたら南改札出ぇや』

「全然方言抜けてないし」

思わず笑いながら独り言を言ってしまった自分に恥ずかしくなり、周りを気にしながら鏡でメイクをなおした。

新幹線のアナウンスが、聞き慣れた駅名を告げる。
あたしは鏡を閉じて、軽く深呼吸をする。

変わらない新幹線の中の空気が、少しだけ懐かしいものになった気がした。


「あお!」

南改札を出るとすぐ、あたしを呼ぶ声が聞こえた。
視線をやると変わらない笑顔。あたしも思わず笑い、駆け寄った。

「さと!久しぶり!」
「なんかぁ、全然変わってないのぉ」
「さとこそ。背、縮んだんじゃない?」
「なわけなかろぉが!」

笑いながらそんな下らないやり取りをする。昔と何ら変わらない関係が、やっぱり嬉しい。

冷たい冬の空気に二人揃ってマフラーを上げ、おかしそうに苦笑した。

< 300 / 435 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop