i want,
大学は楽しかった。
育った環境と全く違う都会には、新しい発見が溢れている。毎日が刺激的で、退屈と感じる暇もない。
でもやっぱり、地元の空気が自分の肌に一番合っていると思う。刺激はないけど、安心がある。さとの側も、それは言えることだった。
話の合間に、さとの横顔を見る。
顔自体は高校生の頃とあまり変わりはなかったが、雰囲気が少しだけ大人になった気がした。
中学生の頃と比べたら、まるで別人の様だ。
『変わらない』と言いながらも、やっぱりどこか変わっている。ハンドルを握る手は、もう少年のものじゃない。
それでもやっぱり温かいこの空気だけは、何年たっても変わらないと思える。
…帰って来たんだな。
さとの車の匂いを吸い込み、そっと心の中で呟いた。