i want,

「みんなで修学旅行行った辺り、あたし毎日通っちょるんよ」
「懐かしいなぁ。変なお土産ばっか買いよったわ」
「さとさぁ、何故か宮島水族館のペンギンに異常に執着しよったよね」

あたしが笑いながら言うと、さとは「だって可愛かったんじゃもん」と口元を尖らせてみせる。
それにまた、みんなが笑った。

笑いながら思い出す。

抜け出した修学旅行の夜。
潮の香りとチョコレート。
繋がれていた小さな手のひら。

闇に溶けていく、痛み。

気付いたら黙ってしまっていたあたしに気付いてか、みんな不意に黙った。
あたしは急いで笑ってみせる。

「あ、ごめんごめん。ちょっとトリップしちょったわ」

わざとらしい笑顔が、より一層空気を過去へ引き戻す。
過去へ戻る度出会うその人は、今、この場にいない。

いないのに誰よりも、この空気を支配するのだ。


「…ヒカル、元気かね」


切り出したのは、あたしだった。
みんな少し驚いた表情を見せる。

あたしは小さく笑って、言った。

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