i want,
……………
ガコンと鈍い音が冬の空気を揺らす。
暖かいココアを手に取ると、じんと指先が痺れた。
懐かしい空気は、思い出を優しく包む。
そうして蘇る記憶は、思い出をリアルに変えていく。
美化した思い出を、潰してく。
「俺、コーヒー」
ココアを持ったまま立っていたあたしの背後で、不意に声がした。
続いて伸びてきた手が、チャリンと小銭を自販機へ与える。
「…田口」
ガコンとさっきと同じ音が響き、田口は吐き出されたコーヒーを手に取った。
「ココア買うだけなのに遅いよ」
「…そう?」
「そうだよ」
コーヒーの缶を両手で包み、はぁっと息を吐く。田口の口元で、白い空気が揺れる。
「神野、代行呼んで来るって」
「あ…そっか。さとさっき飲んでたね」
田口が歩き出したから、あたしも後に続いた。
夜の空気は、あたし達の足音だけを響かせる。
「…さっきの、本当?」
「え?何?」
前触れなく田口が言ったから、あたしは聞き返す。足は止まらない。
「ヒカルのこと、思い出だって」