i want,
…足を止めたのは、あたしだった。
じゃりっと砂が止まる。
続いて田口の足も、止まった。
少し前を歩いていた田口が振り返る。
夜の闇に表情は隠れていたが、あたしは思わず視線を反らした。
「本当も何も…当たり前じゃ。ちゃんと、終わったんやし…」
深刻にならない様に、努めて明るく言った。それが宙に浮いて、あたしを焦らす。
思い出だよ。
ヒカルも、あの想いも、全部。
「…そう、」
田口はそう呟いて、コーヒーを開けた。
一口飲み、小さく息を吐き出す。
「中学の卒業式の少し前…ヒカルが、家に来たんだ」
ドクンと心臓が鳴り、血が体内を駆け巡った。
瞬きを忘れたまま、暗闇の中の田口を見つめる。
ヒカルの話を誰かの口から聞くのが、あまりにも久しぶりだったから。
田口は一瞬躊躇ったが、それでもゆっくり話し出す。
…記憶が、繋がっていく。
今、この瞬間に。