i want,
いつか、矢槙に言ったことがある。『ヒカルは普通じゃない』、と。
それは誰よりも、ヒカルがわかっていたのだ。
ヒカルのせいなんかでは、ないのに。
「じゃけぇ、あおにふられた時、正直少し安心したんよ。あぁ、これであおを俺から解放できる。あおは普通の世界に戻れる…って」
そう言うと、ヒカルはごろりと横になった。
腕を頭の下に置き、天井を見つめる。
「…でも、」
その瞳に映るのは、多分、天井なんかじゃなかった。
「夢、見るんよ」
「…夢?」
「たまにじゃけどな」
ちらっと俺の方に視線をやり、苦笑に近い笑いをたたえる。
すぐに視線は天井に戻り、ヒカルは続けた。
「学校におるんよ。階段を昇ったら、渡り廊下がある。そこに行ったら…あおがおるんよ。いつもの場所で、『遅いわ』って怒ってみせる、あおが」
笑顔のまま続けるヒカルに、俺は胸の奥がぐっと締め付けられる思いだった。
思わず視線を落とし、ヒカルの声だけに耳を傾ける。
「俺もいつもみたいに、『悪かったのぉ』って謝って、あおが仕方なさそうに笑う。…笑っちょるんよ、あおが」