i want,


「成人式…垣枝君、来んかったね」


余りにも突然の綾の一言に、あたしは驚いて息を飲んだ。

みんなのざわめきが、右耳から左耳へと通り過ぎる。

あたしは綾の方を向き、「何で、ヒカル?」と呟く。

「来るわけないじゃ。今ヒカル、どこにいるかわからんのやし…」
「来るって言ってたんよ、垣枝君」

笑って誤魔化そうとした。
でも綾の一言が、あたしの笑顔を凍らせる。


来るって、言ってた?


「…どういう、意味?」


静かな表情を向ける綾。
意を決した様に、話し出す。

「神ちゃん…垣枝君と、連絡取ってたんよ」
「…え?」
「誰にも言わんでって言われてたから言わなかったけど…去年の春、バイト先に垣枝君が偶然来たんて。それから、連絡取るようになったみたいで…」

「垣枝君、大阪で働いちょるらしい」、そう言う綾の言葉が、頭に入っているかどうかわからない。


…ヒカルが、さとと。


記憶の中にだけいたヒカルが、今一気に、今のあたしの中に入った気がした。

距離さえ感じることができない程だったヒカルが、距離をはっきりと感じることができる程に。

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