i want,
「神ちゃん、たまにあっちで会ってたみたい。その度に…垣枝君、言ってたんだって」
綾はゆっくりとあたしに視線を向けて、優しい声で呟いた。
「あおは、元気かって」
『あお』
鮮明に蘇る、ヒカルの呼び声。
中学生のヒカルが、少し生意気なヒカルが、フラッシュバックの様に脳裏に浮かぶ。
変わらない胸の痛みを感じる自分に、戸惑いを隠せなかった。
「ねぇあお。あおの中では、もう昔のことかもしれん。でも…今あの頃を思い出して、笑える?『懐かしいね』って、『あんなこともあったね』って、笑える?」
綾の真剣な問いかけは、あたしの心を揺さぶる。
『懐かしいね』
『あんなこともあったね』
今あたしは、笑ってそう言える?
ヒカルにそう言って、笑いかけれる?
何の痛みも抱えずに、そう言えるの?
「…会いなよ、あお」
黙ってしまったあたしに、綾は優しく言った。
驚いて顔を上げる。
「会うって…ヒカルに?」
「そう」
「だって…今更、会ったって…」
「会えるんだよ、あおは」
綾の一言が、あたしの言い訳を止めた。