i want,

…もう一度傘を持ち直した瞬間、遠くからバスの光が届いた。

水しぶきが夜に輝く。

あたしは一歩下がって、バスを迎える。

ブレーキの音が、あたしの気持ちを焦らした。

心拍数が徐々に上がるのがわかる。


ヒカルは、乗っているだろうか。

これに乗っていなければ、今日はもう会えない。

ぐっと手のひらを握りしめ、ドアが開く音を聞いた。


ゆっくりと降りてきたのは、傘をさしたおばあさん。

続いて、塾帰りであろう学生が三人喋りながら降りてきた。

田舎のバス。乗っている人も多くはない。

学生の後ろに続く人がいないことがわかり、あたしは小さく肩を落とした。


…やっぱり、今日もいない。


今週末には、もう関西に戻らなければいけない。

タイムリミットは近づいている。

小さな期待を塗り潰そうとしている焦燥感を感じながら、帰ろうと足の向きを変えた。


その瞬間だった。


< 342 / 435 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop