i want,
…もう一度傘を持ち直した瞬間、遠くからバスの光が届いた。
水しぶきが夜に輝く。
あたしは一歩下がって、バスを迎える。
ブレーキの音が、あたしの気持ちを焦らした。
心拍数が徐々に上がるのがわかる。
ヒカルは、乗っているだろうか。
これに乗っていなければ、今日はもう会えない。
ぐっと手のひらを握りしめ、ドアが開く音を聞いた。
ゆっくりと降りてきたのは、傘をさしたおばあさん。
続いて、塾帰りであろう学生が三人喋りながら降りてきた。
田舎のバス。乗っている人も多くはない。
学生の後ろに続く人がいないことがわかり、あたしは小さく肩を落とした。
…やっぱり、今日もいない。
今週末には、もう関西に戻らなければいけない。
タイムリミットは近づいている。
小さな期待を塗り潰そうとしている焦燥感を感じながら、帰ろうと足の向きを変えた。
その瞬間だった。