i want,


……………


さとの家を出たら、雨はすっかりあがっていた。

空を見上げると、雲が薄くなったのがわかる。
雲間から見える夜空が、とても澄んで見えた。

「雨、止んだな」

ヒカルが空を見上げて言った。
あたしは一歩後ろで、小さく「うん」と呟く。

会話ができていることが、夢なんじゃないかとすら思う。

それだけヒカルは、あたしにとって遠かったんだと実感する。


遠かった、ずっと。

会える可能性すら、考えることができない程に。


「…あお、時間ある?」


空を見上げていたヒカルが、あたしの方を向いて訊いた。

随分大人になったが、確実にあの頃の面影を残しているその表情。

胸が痛い。


「うん…あるけど」
「ちょっと歩こうか」


そう言ってヒカルは、小さく口の端を上げた。

笑顔とまでは言えないその表情に、容赦なく心臓が跳ねる。

戸惑いを隠せないまま、あたしは小さく頷いた。


何年たってようが、どれだけ離れてようが、あの日々は確実にあった。

そのことを今、改めて実感する。



…あの日々を生きていたのも、今ヒカルの背中を見つめているのも、全部あたしだった。














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