i want,
「あお、終電間に合う?」
「うん、そろそろ行こうかな」
立ち上がりかけたあたしと同時にヒカルも立ち上がり、「送るわ」とジャケットを取った。
あたしもスーツのジャケットを手に取り、ヒカルの家を後にした。
「寒ぃな」
「ね。もうコートは必需品じゃね」
駅までの道のりを、二人並んで歩く。
この感覚も、もう何の違和感もなかった。
「あお、正月帰るけ?」
「んー、多分帰らん。就活入るやろし。ヒカルは?」
「30まで仕事やけぇな。無理じゃろ」
「金もないしの」、そう言って笑うヒカルの口元に、白い息が見てとれた。
「ここでええよ」
駅の手前で立ち止まる。いつもの場所だったから、ヒカルも「おぉ」と答えた。
「気をつけて」
「うん。あ、パスタまだ残ってるから、明日の朝にでも食べて」
「伸びてると思うけど」、そう言うと、ヒカルは「じゃろうな」と笑った。
「じゃあ」
「あお、」
駅に行きかけたあたしに、ヒカルは自分の首もとのマフラーを差し出した。
「寒ぃけぇ」
小さく笑うヒカルの笑顔。昔より随分、優しくなった気がする。
あたしも素直に笑って、「ありがとう」と受け取った。